ぶたろうノート

棋力向上のための覚書

斎藤慎太郎五段「森下システム」を語る (1)

2014年4月6日にニコニコ動画で「電王ponanzaに勝てたらノートパソコンプレゼント! 挑戦者求む![ドスパラ大阪・なんば店]」という番組で放送されました。番組開始前に挑戦者が5人しか集まらなかったということで冒頭から冷や冷やしましたが、番組自体はとても面白いものでした。

今回は参加者が少なかったこともあり、番組の前半は一局をじっくり観戦しながら、斎藤慎太郎五段と山本一成さんが解説されました。「電王ponanza (ノートPC) に勝てたら100万円!」の際は同時に3局指されており、展開が早かったですが、今回は比較的落ち着いた内容でした。

最初の挑戦者は、森下システムでPonanzaに挑みました。対するPonanzaは雀刺しで挑戦者に襲いかかります。斎藤慎太郎五段の森下システムの解説が非常に勉強になりましたので、書き起こしてみました。長いので、数回に分けて掲載いたします。(なお、発言は適宜改変しています)

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山本一成(以下山本)「戦型は矢倉になりました」

斎藤慎太郎五段(以下斎藤)「Ponanzaは、矢倉戦は得意とか、ないかもしれませんが、どっち寄りですか? 得意、苦手、普通ぐらいだったら」

山本「まぁ普通ぐらいですかね。コンピュータ同士だと、相矢倉は、若干後手の方が、勝率が良いんじゃないかというくらいで」

斎藤「へー。それはなんででしょうね。受けに回る展開が得意なところもあるわけですか」

山本「そうですね…」

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山本「これは…かの有名な森下システムですね(笑)」

斎藤「昨日森下さん指されてたので」*1

山本「これは、森下システムの天敵の雀刺しに…」

斎藤「そうですね、雀刺しになりそうですね」

Ponanzaは4六銀・3七桂戦法をあまりやらない

山本「コンピュータ同士だと、あまり▲3七銀~▲4六銀~▲3七桂って跳ねる、プロがよくやる形を、あまりその形を評価しないみたいで」

斎藤「そうなんですか。確かに、▲4六銀型をプロはよく指しますけど、歩越し銀と言えば、歩越し銀。そういうところを(コンピュータは)マイナスにみたりはしますか」

山本「歩越し銀、マイナスなんだと思います」

斎藤「そうですよね…。僕も何で良いのかわからず、みんなが指してるからやってるだけってところもあるので。うーん、やっぱり先入観ってどうなのかな…問題も多い…」

山本「▲4六歩~▲4七銀というのは、本筋ではあるかもしれませんが、ちょっと遅いですよね」

斎藤「▲4六銀型に比べると、迫力には欠けるって僕は思ったことはありますね。ゆっくりゆっくりなんですね。コンピュータの方が本筋ですね、この将棋に関しては。▲4六銀型をやらないということは。そういうところもあるんだなあと思いますね」

山本「コンピュータは、プロの棋譜からエッセンスを持ってきているので、特定の局面(から判断している)というよりは、全体的に『歩越し銀って良くない形なんだろうなあ』くらいの認識なのかもしれません。それで、▲4六銀▲3七桂っていう形をあまり評価していないのかもしれないです。ただ、なかなか最後まで攻めきれないですね、▲4六銀▲3七桂っていうのは。後手の受けが強力で」

斎藤「だから、これはアマチュアの方もコンピュータ向けに指されてるのかな。わかりませんね。受けに自信を持たれているかもしれません。▲4六銀▲3七桂戦法は攻め一本の戦いになるので、どうしても攻め合いか、自分が一方的に攻めることにしかならないので。森下システムは多分受け重視の方なら、指しこなせるんじゃないかと思うので。これ、まさにそういう構図になってきてませんか、雀刺しに受けて立とうという心意気が見えますね」

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 森下システムとは

山本「森下システムっていうのは、多くの方がわからないと思うんで…森下システムっていうのはどういう狙いのある戦法なんですか」

斎藤「比較するとわかりやすいと思うんですけど、森下システム以外だと、▲3七銀戦法という攻めの戦法がありますよね。▲3七銀と進めた形は、銀をはっきり右方面に攻めに使う、というのがイメージだと思うんですけど、森下システムは、ギリギリまで▲4八銀型で待っておいて、受けのときは▲5七銀、中間くらいなら▲4七銀、攻めに使う時は▲3七銀と使い分ける、いわばバランス系の戦い方なんですよ」

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斎藤「で、この局面(第3図)でも、もう▲3七銀はなくなりましたけど、▲5七銀から使っていくっていうのは、形は悪いんですけど、たまに出る形。▲5七銀~▲6五歩~▲6六銀型も見せていて、▲4七銀型も見せている。だから結局、保留して保留して、選んでいくと作戦なんですね」

山本「保留をして、後手の動きを見てから倒そうという」

斎藤「そうですね。どっちかというと、カウンターっていうわけでもないんですけど、相手が攻めでくるのか、守りでくるのかというのを見ながら指してるイメージではありますね」

 

山本「他の戦法でこういうコンセプトの戦法って聞いたことがないんですけど、何かあるんですか、近いもので」

斎藤「うーん、そうですね...この将棋でも▲2六歩で (▲2五歩を) 保留してますよね。そういうのっていうのは、多分昔はなかったんです。飛車先は▲2五歩まで伸ばした方が、居飛車なんだから得とか、そういう思い込みがあったんですけれども、▲2六歩保留は現代の将棋界では当然と言える...玉の囲いに回したり、▲2五桂の余地を残したりする方が得と思われているので、指さない方が得がわかってきた、っていうのがあると思います。森下システムなんかは、それの最初の考えられた手だったと思います」

山本「森下システムって何年くらい前からある戦法なんですかね」

斎藤「どうなんでしょうね。僕、今20才なんですけど、生まれる前からあった作戦ではないかと思います。その頃、大流行したのは多分その頃だと思いますね。でも、後手の対策『雀刺し』によって下火になってしまったというのがありますので…。先手の対応に期待ですね」

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斎藤五段の森下システムの解説、山本一成さんのPonanzaが指さない戦型とコンピュータの判断についてなど、どれも興味深い話ばかりでした。山本さんは将棋の真面目な話の聞き手をしているときが一番面白い、と思ったりして...。

なお、森下システムがプロ間で指されなくなった理由は 『消えた戦法の謎―あの流行形はどこに!? (MYCOM将棋文庫)にも詳しく記されています。

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*1:このイベントの前日、第3回電王戦で森下卓九段がツツカナに敗れた